輸血療法拒否に対する当院の方針

【はじめに】

  • 宗教的に「絶対的無輸血※1」の信念のもと、無輸血治療および代替療法を希望する患者さんがいらっしゃいます。 一方で「生命の尊厳」を第一に重んじる医療従事者たる私たちは、輸血療法が救命のために不可欠であると判断した場合、「相対的無輸血※2」の立場で望むことこそ「医の倫理」であると教わり、そして実践してきた歴史があります。 そのため、ときに患者さんの自律的意思を尊重することと、医療従事者が目指す善行や無危害を追求する方針が相反し、対応に苦慮する事例がこれまで発生してきました。
  • 輸血療法を拒否する患者さんに対し、十分な説明を行わずに輸血療法を実施したことで「患者の人格権侵害」について不法行為責任を怠ったとの判決を受けた医師の判例(最高裁第三小法廷判決、平成12年2月29日)を教訓とし、また私たちには医療従事者として果たすべき使命および責務があることを再認識したうえで、輸血療法を拒否する患者さんに対する院内対応指針を策定しました。 本指針は、令和7年6月11日に開催された当院臨床倫理委員会で審議し、了承を得たものです。

【当院の方針】

  • 当院は道南3次医療圏に暮らす住民の健康と生命を守る立場を課せられている医療機関です。そして救命救急センター、血液内科、心臓血管外科など、治療過程において輸血療法が伴う診療科目が多数存在します。
  • 輸血療法なしには患者さんの生命を守ることが出来ない事例が少なからず発生する当院の立場として、また「医の倫理」に基づき「生命の尊厳」を第一に重んじるべき医療従事者の立場として、以下に当院の方針を示します。
  • 当院では患者さんの人格や価値観を尊重し、疾病・治療について説明を受け、自ら医療行為を選択する権利を尊重するため、患者さん、ご家族、医療従事者間で十分な話し合いを行い、最善の方針を模索することを原則とします。
  • 宗教的理由等で輸血を拒否する患者さんに対して輸血療法が必要な場合、ご本人、ご家族のお気持ちや価値観をお聞きした上で輸血の必要性や無輸血での治療に伴うリスクを十分かつ丁寧に説明し、輸血への同意を得る努力を行います。
  • その上で輸血療法への同意が得られない場合、患者さんの意思を尊重し可能な範囲で無輸血での治療に努め、治療上輸血を行う可能性が少なからず生じる場合には、患者さんの権利・意思を尊重し、無輸血で治療・手術可能な医療機関への転院を検討・提案いたします。
  • 一方、緊急性が高く、重症度や高度な治療を必要とするために他院への転院が困難で、輸血以外に救命手段がないと判断される場合には、患者さんの同意を得られなくとも輸血療法を実施することを基本方針とします。

※1:たとえ生命の危機に陥るとしても輸血療法を拒否する姿勢のこと
※2:生命の危機や重篤な障害に至る危機がない限りで輸血療法を拒否する姿勢のこと