輸血療法拒否に対する当院の方針

【はじめに】

  • 当院では、「宗教的輸血拒否に関するガイドライン(宗教的輸血拒否に関する合同委員会※1報告)」(平成20年2月)を基に策定した、「輸血を拒否する患者に対する院内ガイドライン」の運用を平成21年9月1日より開始しました。
    「患者の意思を尊重し輸血を実施せず、可能な限りの無輸血治療および代替治療にて最善の手段を尽くす」をガイドラインの基本方針とし、これまでに該当する多くの患者さんへの無輸血治療対応を行ってきました。
  • 宗教的に「絶対的無輸血※2」の信念のもと、無輸血治療および代替療法を希望する患者さんがいらっしゃいます。
    一方で「生命の尊厳」を第一に重んじる医療従事者たる私たちは、輸血療法が救命のために不可欠であると判断した場合、「相対的無輸血※3」の立場で望むことこそ「医の倫理」であると教わり、そして実践してきました。
    そのため、時に患者さん側と見解が相反し、当該する患者さんの対応に苦慮する事例も複数例経験してきたところです。
  • 輸血療法を拒否する患者さんに対し、十分な説明を行わずに輸血療法を実施したことで「患者の人格権侵害」について不法行為責任を怠ったとの判決を受けた医師の判例(最高裁第三小法廷判決、平成12年2月29日)を教訓とし、また私たちには医療従事者として果たすべき使命および責務があることを再認識したうえで、この度新たな院内ガイドラインを策定しました。
    本ガイドラインは、平成30年8月9日に開催された当院倫理委員会で審議し、了承を得たものです。

【当院の方針】

  • 当院は道南3次医療圏に暮らす住民の健康と生命を守る立場を課せられている、医療機関です。そして救命救急センター、血液内科、心臓血管外科など、治療過程において輸血療法が伴う診療科目が多数存在します。
  • 輸血療法なしには患者さんの生命を守ることが出来ない事例が少なからず発生する当院の立場として、また「医の倫理」に基づき「生命の尊厳」を第一に重んじるべき医療従事者の立場として、以下に当院の方針を示します。

市立函館病院は、生命の尊厳を尊重するべく、
相対的無輸血を方針に掲げます

  • なお当院が掲げる基本方針には、「患者の権利や意思を尊重する」とともに、「安全な医療を目指し」「救命救急センター病院としての責務を果たす」とあり、輸血療法を拒否する患者さん側と当院側が互いに歩み寄り難い方針が列記されています。
    このことについては、時間的余裕のある治療・手術を行う際に輸血を行う可能性が少なからず生じる場合、十分かつ丁寧に説明を行ったうえで、それでもなお輸血療法を拒否する場合には、患者さんの権利・意思を尊重し、無輸血で治療・手術可能な医療機関への転院に向けた準備を進めるものとします。
    一方で緊急的事象の際には、救命のための治療・手術に最大限の努力を行いますが、輸血療法なしには救命できないと判断した場合には、患者さんを救命することを第一に考え、救命救急センター病院の責務を果たすべく、輸血療法を行うとするものです。
    歩み寄れない各方針を各々の立場・場面等で解釈する必要があります。
  • さらに「輸血製剤の使用指針(厚生労働省医薬・生活衛生局)」に則り、終末期輸血の実施可否に関しては、患者さんの意思を尊重しない延命措置を控える、との目的で他の治療と同様に輸血実施は控えるべきであり、これについては絶対的無輸血には該当しないと考えます。

※1:日本輸血・細胞治療学会、日本麻酔科学会、日本小児科学会、日本産婦人科学会、日本外科学会ほか、計9団体による委員会

※2:たとえ生命の危機に陥るとしても輸血療法を拒否する姿勢のこと

※3:生命の危機や重篤な障害に至る危機がない限りで輸血療法を拒否する姿勢のこと