TAVI

経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)とは

 TAVI(タビ)とは重症大動脈弁狭窄症に対するカテーテルを用いた治療法です。従来の開胸・開心術と比較し、低侵襲な治療法であり、術後の回復も早い点が特徴です。

 この方法により、これまでは手術が困難であった高齢の患者さんや、複数の疾患を有しており手術がハイリスクである患者さんなども治療が可能となりました。

TAVIの方法

 経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)は、胸を開かず、全身麻酔を行い、心臓が鼓動している状態で、鉛筆ほどの太さに折りたたまれた生体弁を、太ももの付け根の血管から専用のカテーテルで心臓の中まで進めて、元々の大動脈弁の位置に留置する治療法です(経大腿アプローチ)。

  アプローチにはいくつかの方法があり、個々の患者さんに応じて適切なアプローチ部位(心尖部、鎖骨下、直接大動脈)が決定されます。

  TAVI後半年間は、2種類の抗血小板薬の内服が必要になります。

大動脈弁狭窄症とは

 心臓弁膜症の一つで、大動脈弁の開きが悪くなり、血液の流れが妨げられてしまう病気です。先天性二尖弁やリウマチ性、加齢による弁の変性や石灰化が原因になります。

 軽度のうちは、ほとんど自覚症状がありません。動悸、息切れ、疲れやすさなどの症状が徐々に進行し、重症になると失神や突然死に至る可能性もあります。自然に治ることはありません。はじめは『弁』という一部分の病気ですが、進行すると心筋(心臓を動かす筋肉)全体の病気になります。心筋全体まで進行してしまうと、弁を取り替えても心筋を回復させることができないため、心臓は元通り働くことができなくなります。

原因

  •  リウマチ性 小児期にかかるリウマチ熱(連鎖球菌)によるもの。
  •  先天性   本来三尖あるべき動脈弁が、先天的に二尖しかないために起こる。
  •  加齢変性  大動脈弁狭窄症の原因の多くを占め、加齢とともに弁が硬くなる。

病態

  • 左心室に圧負荷がかかり左心室の筋肉は厚くなります(左室肥大)。やがて拡張不全を起こし心不全にいたります。
  • 心臓から拍出される血液が少なくなり、狭心症や失神発作、心不全を起こします。

大動脈弁狭窄症の治療法とは

患者さんや病気の状態に応じて、いくつかの選択枝があります。

  • 経過観察
  • 薬剤による内科的治療
  • 弁を人工の物に交換する外科手術(弁置換術)
  • バルーン大動脈弁拡張術(BAV)
  • カテーテルを用いて人工の弁を植え込む(TAVI)

(1) 薬剤による内科的治療

大動脈弁狭窄症による心不全の治療としておこなわれますが、弁の狭窄自体は改善しないので、根本的な治療にはなりません

(2) 弁を人工の物に交換する外科手術(弁置換術)

高度大動脈弁狭窄症の治療の基本は手術治療(弁置換術)です。
手術では狭窄している大動脈弁を切り取り、その部位に人工弁を植え込みます。
人工弁には生体弁と機械弁の2種類があり、それぞれの特徴を考慮し選択されます。しかし何らかの理由で、高度大動脈弁狭窄症の少なくとも3割以上の方が、この治療を受けられていない現実もあります。

外科手術が困難と判定される主な基準
  • STSスコアー
     外科手術のリスクを術前に評価することは、治療方針を決定する上で必須です。リスク評価にはSTS scoreを用いることが一般的であり、scoreが10%を超える方は、開胸手術のハイリスク患者となります。
  • Frailty(フレールティー)スコアー
     年齢だけではなく、実際の日常生活の活動性や生きる意欲・体重の変化・歩行速度・握力・栄養状態・認知症の有無や程度などの術前評価も治療方法選択の重要な判定要素になります。

(3) バルーン大動脈弁形成術(BAV)

 年齢や合併症のために手術療法が適応とならない場合や、手術療法のリスクが高い場合にこの治療法が有効な場合があります。
 また、左心機能が低下していたり、心不全が薬物療法を行ってもコントロール不能な状態や、感染症の合併など状態が悪い場合にも次の治療への橋渡しとして、有効な場合があります。
 しかしこの治療の効果は一時的であり、後に手術などが行われなければ予後が改善しないことが分かっています。

経カテーテル大動脈弁置換術認定施設

 TAVIは、学会及び厚労省により認可を受けた施設のみで施行可能な治療法です。

 当院は、2015年11月に認可を受け、経カテーテル大動脈弁置換術を行うことが出来る施設の一つとして認定されました(道南では唯一の施設です)。

透析患者さんに対するTAVI

 当院は2023年8月から、透析患者さんに対する経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)の治療を開始しました。

 透析患者に対するTAVIは認定された医療機関のみで実施されています。

 透析患者さんは、動脈硬化や大動脈弁狭窄症を発症しやすい傾向に多くあり、手術に対する合併症のリスクが高いため、手術を控える方が多くいました。

 しかし、TAVIによる治療は合併症のリスクが低いため、透析患者にとって希望が持てる治療となります。

ハートチームとは

 循環器内科医・心臓血管外科医・麻酔科医・放射線科医・看護師・放射線科技師・臨床工学技士・臨床検査技師・理学療法士がハートチーム(心臓治療のプロ集団)として、適応から治療方法まで十分な検討を行います。
 また、それぞれの垣根を越えて連携を密にとりながら、実際の治療を行っていきます。
 TAVIを施行するにあたり、このハートチームによる集学的診療・治療システムの構築は不可欠です。

ハイブリット手術

 ハイブリッド手術室とは、手術台と心・血管X線撮影装置を組み合わせ、陽圧換気で清潔な環境を整えた手術室のことです。これまでそれぞれ別の場所に設置されていた機器を組み合わせることにより、最新の医療技術に対応します。

 従来の手術室のX線透視・撮影システムではX線装置の出力や透視画像の質的問題により高度な術式に対応できない状況でした。手術室の広さを十分に確保し、高性能なX線透視装置を設置したハイブリッド手術室を使用することにより、複雑な最新医療にも対応可能な環境を整えました。

TAVI手術動画

TAVI手術動画が再生されます。

※こちらの動画は実際の手術映像となります。このような動画や写真で、気分が悪くなる可能性のある方はご遠慮ください